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| 娘 | 「お母さん、一日一日ね」 | |
| 母 | 「おいでなした。いきなりだ。その通り、わたしは一日一日、衰えて死に近づいているよ」 | |
| 娘 | 「あら、そういう意味合じゃないのに。でもそれは事実で、人みな同じよ」 | |
| 母 | 「お前の話すことの受けとり人は、わたしだ。 | |
| わたしがそう受けとめたら、それはそれでしょうがあるまい」 | ||
| 娘 | 「それは慥かね。ついつい自分のおもいで、自分に話すように、問いかけてしまうものだわ」 | |
| 母 | 「誤解、曲解はつきものだ」 | |
| 娘 | 「難しいわね。唯、相手がお母さんなら、仮に自分のおもわくと全く違っても、それは違ってよですむけど、仲の悪い相手だったら、そうはいかない訳ね。気をつけます」 | |
| 母 | 「もの云えば唇寒し、という感情はよく味わったね。特に若い時に多かった。でも根がお前の云うように陽だから、おかまいなしの面もあった。友達は少なかったね。知り合いは多かったよ」 | |
| 娘 | 「生涯を通じての友達はいゝものよ」 | |
| 母 | 「お前にそう云われるのは唇寒しだ」 | |
| 娘 | 「ごめんなさい。お母さんの方が、はるか先輩なのに諭すような云い方でした」 | |
| 母 | 「ほらほらそういう物云いが難しい」 | |
| 娘 | 「友だちなら一方的に受けとめないで、おかしいと思ったら、それはどういう意味かとか、どうしてそういうことになるのか。と突っこんで聞くわ」 | |
| 母 | 「それが難しい相手となると、やゝこしくなる。敵をつくったりしてしまう」 | |
| 娘 | 「言葉で敵をつくってしまう訳ね。自業自得ね、淋しいわ」 | |
| 母 | 「言葉だけではなく、感情も伴うからね。やゝこしいことこの上なし」 | |
| 娘 | 「若い時は、確かにそういう立場にたゝされた時が、苦しいのよね。動物なら、本能的に避けて、お互いそ知らぬ態でいられるけど、人間はそういうことが下手だわ」 | |
| 母 | 「ほうお前は、動物の気持なら分るのかい」 | |
| 娘 | 「お母さんの受け売りをしているだけよ。植物でも相性はあるのよ。土地だって、環境だって、ちゃんと選ぶわ。不思議でしょうがないわ。人為的に種を播いたら、播いた数だけ、ちゃんと発芽するでしょ。自然界での発芽は、たゞたゞ感心するばかりよ。風に運ばせて、出来るだけ広範囲に種を飛ばしたり、鳥に遠くに運ばせたり、その時も一時に全部発芽して、その年に災害があったりして全滅することだってあるでしょう。だからちゃんと毎年毎年発芽するように、統制がとれているの。一体誰が統率しているのか、 不思議でしょうがないわ」 | |
| 母 | 「自然界の不思議程、驚くことはないか。そうだろうね。人間が播いた種は、その時に全部発芽してしまう訳か。お前は世話をしているからよく知っているね」 | |
| 娘 | 「ほら昔、縄文の遺跡から出土した蓮の花の実が、開花して人をビックリさせたニュースがあったでしょう」 | |
| 母 | 「あったね。信じられなかった」 | |
| 娘 | 「内の人がね、その博士の手から廻り廻り育てゝいる、縄文の蓮の根を頂いてね、仕事場にある池に植えたのよ」 | |
| 母 | 「そんなことがあったのかい、知らなかった」 | |
| 娘 | 「発芽を楽しみにしてね、なにしろ縄文の蓮よ。ところが云われた通りに植えたのに、芽が出なかったの。残念だけでなく、責任も感じてね。先方の人も、そんな筈はないと、 わざわざ遠方から来て下さったの。原因は池にいるザリガニだったの。多分そうだろうと云うことで、落着はしたものゝ、残念極まりないことをしたと、落込んでいたわ」 | |
| 母 | 「落込んで当然だろうよ。まさかと思うことはよくあるからね」 | |
| 娘 | 「想い出したから話すわ。池にどじょうやはやや、金魚がいたりしたの。勿論小さな池よ。その魚が全部いなくなったことがあるの。その犯人は青鷺だったの」 | |
| 母 | 「おー、青鷺かね。間近で見たのかね」 | |
| 娘 | 「吾が陶房への珍客として、歓喜して、写真を撮りまくったそうよ。そしてはっと、気がついて池にいって見たら、魚は全部やられていた訳なの」 | |
| 母 | 「自然界のめぐりは、そんなもんなんだろう」 | |
| 娘 | 「人間は人間の都合で、自然界を見たり、受けとったりしますからね」 | |
| 母 | 「川だって、一直線にするからね。自然界への挑戦なのかね。驕りなのかね。あの一直線の護岸は、必ず報いは受けるよ」 | |
| 娘 | 「いやだわ、お母さんのそういう云い方は」 | |
| 母 | 「え、お前は悪くとったのかい」 | |
| 娘 | 「でもそうでしょう。必ず報いは受けるとは、そういうことでしょう」 | |
| 母 | 「はいさようです。自然界に背くと、いつかは必ず、知らず分らずのまゝに、報いを受けるよ」 | |
| 娘 | 「でもね、さっき自然界での播かれた種が、発芽しないという話をしたでしょう。人間も次々に生まれてゆくと云うことも、しかも不完全のまゝに、生涯を終わるということも、同じことなのかしら」 | |
| 母 | 「すごい発想だ」 | |
| 娘 | 「人間が完全になった暁には、もう人間はその時が最後で、もう生き続ける必要は、ないと思えるからよ」 | |
| 母 | 「進化する必要がなく、そこで完全に停止するということかね。これこそ、お前が云う神のみぞ知るということになるね」 | |
| 娘 | 「その通りよ。神のみぞ知る。ほっとするわ。これ以上の安堵のおもいはなくてよ」 | |
| 母 | 「わたしは、人間だから人間だけの気持を知って、神さんのことはお前に任し、人間らしい欲の、それもさゝやかな一服はどうだろう。疲れもどっと出たしね」 | |
| 娘 | 「ごめんなさい。そう一服にしましょう。又明日があるわ」 | |
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2003 第5期 第8話 完 |
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