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| 母 | 「きょうは早い出勤だね」 | |
| 娘 | 「出勤はいやよ。そんな悲しい云い方をしないで」 | |
| 母 | 「どうもわたしは、言葉使いが荒いね。昔からだ」 | |
| 娘 | イメージ拡大表示650×442(65Kb)
「お母さん、正直に云わせて貰いますが、お母さん達は若い時から、朝鮮半島の日本人町での生活でしょう。家はお父さんが店をして居たので、朝鮮半島の人を沢山使って、仕事をしていたでしょう。自然とお母さんが身についてしまったものが、あると思うのよ」 |
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| 母 | 「人使いの荒いことか」 | |
| 娘 | 「それもあるわ。それ以前の問題として、そこで生活していた日本人は、殆どの人々が、 日本の統治を悪いことゝ思わず、朝鮮半島の人々を低く見ていたのと、違いますか」 | |
| 母 | 「統治を悪いことゝは思わなかった」 | |
| 娘 | 「その時代、その時代の空気に飲まれると云うのは恐いわ」 | |
| 母 | 「わたしらは、一般庶民だから威張ると云っても知れていたよ。けど、権力を持った者は格別の存在だったね」 | |
| 娘 | 「そうなると思うわ。私なんかが悲しく思ってもしょうがないと思いながらも、何故人の国を統治したり、植民地化したり、その国の利権を得ようとしたり、情けないのを通り越して、腹が立つわ」 | |
| 母 | 「国に対して腹が立つか」 | |
| 娘 | 「そうよ、日本だけではなくてよ。大国と云われる国もそうよ。自分の国のしたことでも、なんの正当化も出来はしないわ」 | |
| 母 | 「その辺りの心情の違いは、世代の違いかね。わたしだけではない、朝鮮半島でも、満州にいった人でも、悪いと知りながら、行って生活していた人はいないだろう」 | |
| 娘 | 「教育なのかしら。自意識の問題なのかしら。如何なる人にもその人の権利があり、いかなる小さな国で在ろうと、弱い国であろうと、後進国であろうと、その国の権利がある筈よ」 | |
| 母 | 「その根本の意識は、わたしらよりお前達の方が進んでいると思うよ。でもどうだろう、利権を現実に捉えた時、人も国もあまり変っているとは思えないが」 | |
| 娘 | 「悲しいわ」 | |
| 母 | 「正当な戦争と云いながら、影には利権があるのだろう」 | |
| 娘 | 「正当な戦争などあり得ないわ」 | |
| 母 | 「指導者次第だね」 | |
| 娘 | 「神さまを忘れているからよ。指導者は代るわ、変らない真実のものに従わないと駄目だわ」 | |
| 母 | 「あとになって、指導者が悪かったと云っても始まらないものね。上も上なら、下も下ということはあるよ」 | |
| 娘 | 「分るわ。下の者は怒って、指導者の責任を追求し、追いやるわ。そして又、違う指導者に期待をかけるわ。うまく行かないと又、指導者を責めてと繰り返しよ。自分らにも責任はあるのにと、つくづく思うわ」 | |
| 母 | 「歴史の責任を、個人が痛感するのは難しいだろう」 | |
| 娘 | 「でもそれが国の教育とは違うのかしら」 | |
| 母 | 「わたしらは、日本を神の国と思い、天皇を崇拝する教育だった」 | |
| 娘 | 「神の国違いだわ」 | |
| 母 | 「難しい意識だね。でもわたしは国、国と云う意識はあまり持たないし、持つことは嫌いだよ」 | |
| 娘 | 「やられたことを学ぶより、やったことを学んで浄化してゆくことが、なにより大事だと思うわ」 | |
| 母 | 「浄化か、お前もわたしから浄化しているのだろう」 | |
| 娘 | 「親子だから、嫌味とは受けとらないけど、悪い処は、出来ることなら自分で終わってしまって、次の世代に残さないように努力してよ」 | |
| 母 | 「お前はそういう意識で、生きているんだね」 | |
| 娘 | 「私が、自分を生きるということは、そういうことだと思ってよ」 | |
| 母 | 「たしかに他へのおもいやりは、わたしらの世代より、お前らの世代の方がある気がするよ。お前は権力や、富を得たいとも思わず、仮に千に一つ持ったとしても、悪いことだと思うだろう。恵まれた家庭に生まれても、悪いと思うに違いないね。その心配は全くなくお前は生まれたけど。いやいやあるんだ。朝鮮半島で、わたしらが裕福な生活を送ったことは、ゆるせないんだ」 | |
| 娘 | 「……」 | |
| 母 | 「でも、人への優しさはいゝもんだよ」 | |
| 娘 | 「人への優しさを、自分らが持っているとは、自分としては云いづらいわ。駄目なことばかりしているのが事実よ。自分が駄目だから、人を責められないだけ、と云ってもいゝの。優しさとは痴がましいわ。勿論そのような出来た人もいるし、そこに近づいてゆくことが、日々の生活とは思って居てよ」 | |
| 母 | 「わたしは人さまの目を気にして、人に後指をさゝれない生活をしなければ、と自分を律してきた世代だ。今は人さまの目は問題にならない。自分が中心で、自分を大事にする。この辺りの変化をよくよく考えないと、いけないのかも知れないね。悪くとらないで、自分らにはなかった芽ばえと思って、上手に伸ばさないと、いけない訳だ」 | |
| 娘 | 「自己の生長も、国の生長もあってほしいわ。浄化していって、この地上が神の国であってほしいわ」 | |
| 母 | 「どうだろう、そんな世界が来るのかね」 | |
| 娘 | 「この間面白い話を聞いたのよ。この人の話は信用出来るという人よ。 ● 人間の脳は発達しているでしょう。他の動物より、遥かに発達しているのよ。比べものにならない程の発達よ。でもその説明がユニークなの。本当のことは専門家じゃないと分らないわ。脳の進化を積み重ねと理解するの。すると人間の中心に据えられている脳の部分程、太古の脳で、その上その上に進化された脳が出来、最後に脳の一番上の部分、 頭骸骨のすぐ下の大脳皮質の部分、これが人間の現在の部分ということなの。動物の本能がのこり、弱肉強食の当り前があるの。これなら私にも分ってよ」 |
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| 母 | 「お前に比べると、わたしの大脳皮質は発達してないということだ」 | |
| 娘 | 「直伝の親子ですもの。あまり変りはないわ。でも自分を大事にし、他を責めないという点を大事に伸ばしてゆけば、新しい大脳皮質を持った若者達が生まれてよ」 | |
| 母 | 「今は脳の時代か。そう云えば子供の頃、大人にすぐ、お前らは能なしだ、アンポンタンだと云われたね。馬鹿だと云うことだよ。今は人のことを脳なしとは云わないだろう、 今はなんと云うのかね」 | |
| 娘 | 「今急に想い出したわ。内の人が自分は左脳はないに等しい、右脳だけで仕事をしている、というのが口癖よ。本当みたいよ。左脳はあっても脳なしなのね。おかしくなるわ」 | |
| 母 | 「……」 | |
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2003 第5期 第6話 完 |
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