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| 娘 | 「お母さん、知っていますか」 | |
| 母 | 「いきなりなんだね。わたしはなんにも知らないよ」 | |
| 娘 | 「話もきかないでー。そう云えば子供の時から、捜し物を聞くと必ず、わたしはなにも知らないよ、とよく云われたわ。子供ってどうしてすぐ親に聞くのかしら」 | |
| 母 | 「なんでも知っていると、思っているんだよ」 | |
| 娘 | 「そうなのよね。なんでも知っている。それからビックリするのは、なんでも出来るし、 一体いつ寝るんだろうと思っていたわ。寝てる姿を見たことがなくてよ」 | |
| 母 | 「お前さんはどうなんだ」 | |
| 娘 | 「私は全く駄目。子供がいようとその友達が来ていようと、疲れたら横になるの。体力が持たないのよ」 | |
| 母 | 「体力だけじゃなかろう」 | |
| 娘 | 「そうだろうと思うわ。そうそう、お母さんに聞こうと思ったことは、違う話なのよ。ついついつられて違うことを話したけど、そうそう又々脱線かな、想い出した。小学生の遠足とか、学芸会とか、特別の時に普段着とは違う余所行を着るでしょう。それが前の昼にはなかったのに、当日の朝枕元にちゃんと置いてある。あれは子供心に嬉しくて嬉しくて、不思議で不思議でしょうがなかった。今想えば母の愛ね」 | |
| 母 | 「なに感傷にひたっているんだ。わたしの母のことを想えば、わたしなんて屁の河童だよ」 | |
| 娘 | 「あらいやだ。昔の母親は万能選手だったのよね。なんでも出来たわ」 | |
| 母 | 「売ってないし、買えないし、そこの処は察するもんだ」 | |
| 娘 | 「昔はみな、着るものは粗末でしたよね。余所行という言葉は、なんとなく晴れ晴れとした処があって懐かしいわ」 | |
| 母 | 「余所行の顔は駄目だよ」 | |
| 娘 | 「あー、余所行の顔か」 | |
| 母 | 「お前さんには似合わないよ」 | |
| 娘 | 「昔の人は襟元とか胸元とか、口元とか部分部分を実に大事にひきしめて、美しくしていたわ。洗いざらしのシャツのボタンを上まできちんとして、学生でも学生服のボタンを上迄ちゃんとはめて。今は全く違うわ」 | |
| 母 | 「昔の人はしまりのないのがいやだったんだろう。あの人は口元のしまりがないと云われただけで、信頼のおけない人と、判断されたからね」 | |
| 娘 | 「今は胸を出し、臍を出す時代よ」 | |
| 母 | 「どこの国の真似かね。あさましいことだ」 | |
| 娘 | 「お母さん、そのことを浅ましいととるのもお母さんの時代だからでしょうね」 | |
| 母 | 「ふしだらと、とらえたよ」 | |
| 娘 | 「あーそうなのね。廻りの目、世間の目というのが、いつも自分をとりまいていた訳ね。 それが自制につながる訳ね」 | |
| 母 | 「世界にはいゝ国のいゝ習慣が、いくらでもありそうなのに、よりによってどういうことなんだ」 | |
| 娘 | 「まあまあ体にさわるわよ」 | |
| 母 | 「トンデモナイ、体に刺激を与えて、元気が出て来るよ。今の世の中、云いたいことばかりだ」 | |
| 娘 | 「お母さんはもう、なんにも意に介しないと思っていたのに、まだまだ元気ね」 | |
| 母 | 「お前、人を死人扱いしないでおくれ、生きているんだよ。血だってほとばしるよ」 | |
| 娘 | 「すごいわ。今の人は他人は他人、自分は自分なのよ。自分が悪くなければ、絶対あやまる必要はないと思っているのよ」 | |
| 母 | 「その辺のお互いのありようが、おかしくなっているよ。自分にはお金はある、力があると云って、自分勝手に自由に振るまって、いゝ訳はないだろう。他人さまの目がある、 気持ちがある、その中での一個人なんだからね」 | |
| 娘 | 「おかしな個人主義の面は、ありますよね。自分を大事にする大事さに、違いがあるのかしら」 | |
| 母 | 「見せびらかす、という行為は情けない、卑しいことなんだ。自分の体を見せびらかす、自分の持ち物を見せびらかす、本能だって人前で見せびらかすことは、情けない卑しい人間のすることだよ」 | |
| 娘 | 「時代が違うのね」 | |
| 母 | 「時代には関係あるまい。人間としての真実のありようだ」 | |
| 娘 | 「お母さんがそう確信する処に、時代の差があるのよ。多分、今の人は云うわ。臍は出したいから出す、他人がどう思おうと、全く関係ないもんって。人さまの目を気にしないということよ」 | |
| 母 | 「落ちる処まで落ちたのかね」 | |
| 娘 | 「若い人が店の前とか、道端で、屯して地面に座り込んでいるわ。女の子も居てよ。座りたいから座る、そこの何処が悪いということよ。女の子は電車の人混みの中でも化粧を始めているわ」 | |
| 母 | 「本当かい。廻りの大人は注意をしないのかい。殴ってもやめさせないといけない。人さまに不快の念をおこさせたり、迷惑をかけたらいけないんだ」 | |
| 娘 | 「それが迷惑をかけているとは、思わないのよ。不快を与えているとも思わないの。不快だとしたら、その人の勝手になるわけ」 | |
| 母 | 「あーあ、聞くんじゃなかった。世界には女の人はヴェールで顔をかくしている民族だっているんだろう。おかしな風習でも、心にあるものは奥ゆかしさだと思うよ」 | |
| 娘 | 「今の人は、自分中心で動きたいのよ。動けない世の中だから、せめて自分の小さな行動は、自分中心でありたいの。胸元をあけるのが好きだったらあけるの。それをのぞきこめば、のぞきこむ人間の方が卑しいと思うの。本人達は話を聞いたら、多分、気持ちの良い若者が多いと思うわ。本当はそんなことは些細な馬鹿馬鹿しいことで、もっと若者らしく力を発揮することが、社会には一杯あって、それに参画してこそ生きがいを感じるという、社会にしないと駄目なのよ。若者だけの責任じゃないわ。大人が若者の力を借りて、力を発揮させる社会を作らないと駄目だわ」 | |
| 母 | 「若い人は力をもて遊んで、あらぬ方で発揮させてるという訳か」 | |
| 娘 | 「そうだと思うわ。いつの時でも、若者の心は純な処がある筈よ。若者の優しさはいゝものよ」 | |
| 母 | 「お前のように善意に考えられゝばいゝが」 | |
| 娘 | 「若者は暴走するわ。それはエネルギーよ。走るということは、悪いことではないわ。唯、どこに向って走るかということよ。あーそうそう話がどんどん進んでしまったけど、お母さんに会った時、初めに話そうと思ってたことを、想い出したわ。私達の地球は太陽系に属しているでしょう。その太陽系は銀河系に属し、その銀河系は宇宙の中では小さい銀河系にすぎないの。そして、はかり知れない大きさの宇宙そのものが、物凄い勢いで、どこかに向って走っているんですって。凄い話しでしょう。お母さんに先ず聞いてほしかったの」 | |
| 母 | 「宇宙の話を聞いて少しは救われるおもいになったよ。そうそう一服にしようよ。安堵の一服ということで」 | |
| 娘 | 「そうね、老人には老人の一服があるわ」 | |
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2003 第5期 第5話 完 |
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