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| 娘 | 「お母さん、もう一つ話してもいゝ」 | |
| 母 | 「いくらでも話し、面白い話かい。それともおかしい話かい」 | |
| 娘 | 「それが難しいの。そのどちらをも越えて、感動的な話とおもったのよ」 | イメージ拡大表示417×598(32Kb) |
| 母 | 「おー感動的な話かい。世の中にはまだまだ感動させる人間がいるんだ」 | |
| 娘 | 「いや人間でなく犬の話よ」 | |
| 母 | 「人間はもう駄目で犬かい」 | |
| 娘 | 「お母さんらしくないわ。生き物みな同じと云ってるくせに」 | |
| 母 | 「そうだね。一寸人間に期待しすぎたので、こりゃ反動かね。すまん」 | |
| 娘 | 「私なんかに謝ってどうするのよ。神さまに謝らないと」 | |
| 母 | 「おーおー神さまかい。でもそうかも知れないね。ところでその犬が一体どうしたのだ」 | |
| 娘 | 「沖縄ではなにかにつけて、人がよく集まるのよ。その時も老若男女が集まっている時で、賑やかだったんですって。いろいろな話も出てね。沖縄は長寿国と云われている通り、老人の方もとても老人らしくなく、お元気で仂いているのよ。おばあちゃんと声をかけても、振りむかないそうよ、誰れも振り向かない。おねえさんと云うと、あちこちの人が振りむくんですって。其の時、其の家の老犬が寝そべっていたのに、急に立ち上り、前に向って頭を上げ、遠吠えのような叫びを上げたんですって。集まっていた人は驚きとともに沖縄では犬まで元気だと笑ったんですって。もうすっかり老犬なのよ。でも、なにに向って吠えているのか、みなが訝しくおもったの。わからない、唯遠くに向って声の限りに叫ぶだけなんですって。するとバタッと横ざまに倒れ、みなが近付けば、すでに息をひきとっていたの。集まっていた人がみな異口同音に、わしらもこう生きたいもんだと云ったそうよ。まるで死にざまのお手本だったと。 |
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| 母 | 「なにゝ向って吠えたんだろう。神さまじゃないね、若かりし頃の誰れかだろう」 | |
| 娘 | 「へーお母さんはそう思うのね」 | |
| 母 | 「それ以外にはないだろう」 | |
| 娘 | 「人それぞれよ。でも死に際の最后に誰れかを観るとしたら、これ又人それぞれでしょうね」 | |
| 母 | 「一番いやだった人の姿が脳裏をかすめるのだけは勘弁してほしいね」 | |
| 娘 | 「そうはいかないのが人生よ」 | |
| 母 | 「お前に諭されるのかい、わたしも歳をとりすぎたようだ」 | |
| 娘 | 「想い出した。工芸館の人がどうして犬の話をしたかと云うとね、あの人が悟りの話をしきりにしたそうよ。それで工芸館の方が沖縄ではみな最后まで元気でいて、バタッと倒れて死ぬ犬の話をしたのよ。沖縄では生の単なる延長にすぎない処に死があるの。死んでも生と死の境がなく、ゆきゝするのよ。だからなにを悟る必要があろう、悟っている暇なぞない位、最后まで元気で動く、この途方もない原動力が沖縄の人の血脈なのよ」 | |
| 母 | 「すごい話だね。一体どういう訳なんだ」 | |
| 娘 | 「厳しい風土の中で、又沖縄が置かれた歴史のさまざまの苦しみの中で、ありあまる光りの恩恵と思えると、云っていたわ」 | |
| 母 | 「誰れがかい」 | |
| 娘 | 「沖縄に六回も行っているあの人よ」 | |
| 母 | 「ほう……」 | |
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2002 第3期 第18話 完 |
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