第 3 期 第 17 話

今思えば、あるかなしかの うつゝの話
母と娘の対話 其の十七



「ねぇお母さん、これはインドへ行って来た人の話で面白いのよ」
「またおかしな話かい」
「面白いと、おかしいのとは微妙に違うわ。私は使い方を別けています。おかしいには僅か哀愁が入るのよ」 イメージ拡大表示758×550(75Kb)
「お前は古風だね」
「お母さん、インドで乞食と聖者とどう見分けるかわかります」
「それは一目瞭然だろう」
「いや、わからないの。乞食は聖者の真似をしているし、聖者は乞食の風をしているというの」
「そりゃ又どうしてだ」
「聖者は無一物で、ボロを身にまとっているの。乞食はやはり無一物でボロをまとっているの。顔はどちらも彫りが深く、目がするどいの」
「見る人が見たら分るだろう。騙されるものじゃなかろう」
「これは私の見解よ。この話を聞いて、ほんとに面白かったの。嬉しくなる程。聖者は乞食と間違えられるようでないと、本物とは云えないと思うわ。乞食の真似をしていては駄目よ。しんから乞食そのものでないと本物とは云えません」
「手厳しいね。それでなんで乞食の方は聖者の真似をするのだろう」
「それは生きられるから。インドでは聖者に対しては信仰心から施すの」
「聞けば面白い話だね。もうどちらでもいい訳か。聖者は乞食と思われてもなんの抵抗もなく、乞食は聖者と思われて、施しを受けられる」
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「それで思い当ってね。内の人が大原に住む画人が好きで、尋ねて行った程なの。その亡くなった大原の画人がね、普段から粗末な身なりと生活をしているんですって。友人に弟子の人がいてね。その弟子の人が云うの、外で師に出会っても、まさに乞食そのものだと思うと。すごい人だと思いました。もう亡くなって大原も寂しくなったと云っていました。その方の画くものは、まさに真に迫り、大自然であろうと、不動明であろうと、不必要なものを削ぎ落とし、真実あるのみと云っていたわ」
「お前さんはそういう話をしている時が、一番生々しているよ。目が輝いている」
「私は駄目よ。なんのとり得もなくてよ。二人の姉は出来がよいのに、本当にお母さんの子かしらと思うわ」
「お前の顔はお父さんにそっくりだよ。瓜二つと云ってもいゝ。面白い程だ、いやおかしい程だ。面白いとおかしいとお前はどちらがいゝのかい」
「おかしい程似ているの方がいゝわ。人にも云われてよ。家に来た人が写真を見て、よく似てますねって。私は父親を知らないだけに、そう云われて嬉しいわ。自然と泪ぐんで来るの」
「………」
   
 

2002

第3期 第17話 完



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