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| 娘 | 「ねぇお母さん、おかしい話を聞いたのよ」 | |
| 母 | 「また嬉しそうに話すね」 | |
| 娘 | 「いや嬉しい話ではなくてよ。聞いた瞬間おかしかったのよ。自分とは違う感覚の人がいる、逞しい人がいると云ってもいいのかしら」 | イメージ拡大表示462×600(44Kb) |
| 母 | 「なんでもいゝや、早く話しなよ」 | |
| 娘 | 「町を歩いていて、列をつくっているのを見たら、先づともかく、其の人は自分も並ぶんですって」 | |
| 母 | 「おかしいね」 | |
| 娘 | 「そうでしょう。先づ並ぶという処がおかしいのよね。それから並んでいる列の人にこの列はなんの列なのか聞くんですって」 | |
| 母 | 「ほうそれで」 | |
| 娘 | 「前の人も、よく分らないけど自分も唯、並んだと云われたの。二人とも、人が列をつくっているのに、訳も知らずに行き過ぎることは出来ないと云ったのよ」 | |
| 母 | 「なる程、わからんでもないが」 | |
| 娘 | 「その人はね、信念をもっているのよ。人が列をなすにはなにか訳がある。損得で考えれば、得はなくても損はない筈だと云うのね。すごい好奇心よね」 | |
| 母 | 「でも字が語る如く奇しい」 | |
| 娘 | 「私はそういう面は全く駄目なの。好奇心も起らない位、並ぶという行為の力もないの」 | |
| 母 | 「其の時代、其の時代に生きる逞しさは其の人にありそうだね」 | |
| 娘 | 「そうなの。きっと何時の時代でも生きられると思うわ。ねぇお母さん、私は敗戦の年の生まれだから、いわゆる戦後の民主主義の教育よね。よく云われる戦時中と戦後のあり方の違いを、ものゝ見事に変貌した人と、出来なかった人とはあるのでしょう」 | |
| 母 | 「ほとんどの人は、其の時代、其の時代の空気には弱いもんだよ。戦時中は戦時中の空気の中に揉まれ、戦後は戦後の空気の中で生きてしまうもんだ。其の豹変を責める気はないけど、一寸した不信感は抱くね」 | |
| 娘 | 「大人だけでなく軍国少女だったという人も豹変してますよね」 | |
| 母 | 「その時代、その時代に翻弄されるのは人の定めで、自分の反省を含めて、攻めるのはやさしいけど、今はこんな時代だが、又次の時代に入って、また全く違ったらその人も変るのかなと思うと不信感は抱くね」 | |
| 娘 | 「正直にお母さんはどうでした」 | |
| 母 | 「わたしは軍国少女の時代は越えて、朝鮮半島で家庭をもっていたからね、多感の時代ではなかった。でも朝鮮の日本人町に生活してなんの抵抗も感じなかった」 | |
| 娘 | 「自分達は朝鮮の人達に対して悪いことをしている、すまないことをしている、と云うおもいは」 | |
| 母 | 「なかったね。廻りにそのような人は居なかったよ。悪いという意識はなかった。中には朝鮮の人達を好きになって、溶けこむように親しくしていた人はあったね」 | |
| 娘 | 「そうなのね」 | |
| 母 | 「不満そうだね。お前のその不満には、前々から気づいているんだ。丁度、年頃の時のわたしへの反抗を想い出すね」 | |
| 娘 | 「私は攻めてなくてよ。誰れに対しても、どんなことに対しても攻めはありません。だけど、戦争に対してだけは全く別なの。強い者、力を持った者が弱者を支配するということだけは、絶対ゆるせないの。自分の痛みだけを知って、人の痛みが分らず、力をもって征服するのはゆるせません」 | |
| 母 | 「……」 | |
| 娘 | 「いかなる時代であろうと、大国、強国の力による弱者への侵略や攻撃は絶対ゆるせません」 | |
| 母 | 「人から聞いて知ったんたが、お前はいろいろな反戦や人権の集会に出席してるんだね」 | |
| 娘 | 「その話はやめましょう。自分の心の問題として、唯行かずにはいられないだけなの」 | |
| 母 | 「人さまざまだね。一つの事柄には必ず賛成するものと反対する者がいる。大方の大勢はあったとしても」 | |
| 娘 | 「私は深くは考えてなくてよ。唯人を殺してはいけない、戦争はいけないというだけなの」 | |
| 母 | 「烈しいね」 | |
| 娘 | 「人間としての真底のモラルとして、こゝから出発してほしいだけ」 | |
| 母 | 「ウンウン」 | |
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2002 第3期 第16話 完 |
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