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| 娘 | 「お母さん、長い人生の中でどんな人が好きでした」 | |
| 母 | 「わたしはまだ生きているよ。過去でなく、これから好きな人が現われないでもない」 | |
| 娘 | 「元気だわ。それはそれで置いておいて、過去の人の話でいゝわ」 | イメージ拡大表示425×600(29Kb)![]() |
| 母 | 「過去より、明日おもいがけずにいゝ人に会えるという方が、いゝと思うがね。まあいゝか、唯云いたいように云っていゝのかい」 | |
| 娘 | 「その方がよくてよ」 | |
| 母 | 「お前のもの云いはいつも、いきなりなので困るが、即座におもい浮かぶのは清々しい人かな、男女を問わず」 | |
| 娘 | 「清々しいひとね。やはり男の人だわ」 | |
| 母 | 「そうとは云えないよ。女の人は女を意識せざるを得ない世の中なので、難しい面が生じてくるのかな」 | |
| 娘 | 「当然、女は女であることを強く意識して生きます。生きざるを得ないわ」 | |
| 母 | 「わたしは保険のセールスを、仕事として来たから、その点はよく経験した。でも中には清々しい人もいるよ。若くてもいるよ」 | |
| 娘 | 「それは生れよ。持って生れた素質の面がかなりあってよ」 | |
| 母 | 「そうかも知れないね。本人はあまり意識しない。その処に清々しさの本質があるとしたら、やはりもって生れた素質と云えるね」 | |
| 娘 | 「羨ましいわ」 | |
| 母 | 「おかしなことを想い出した。わたしは五十を過ぎたある時、突然ね、自分はいつも奥歯を強くかみしめていることに、気がついたんだよ。はっと思って奥歯をゆるめる。しかし又いつのまにか、ギューッと噛みしめている。その時、自分はこんなにも奥歯を噛みしめている人生を、歩いて来たということに愕然としたんだ。情けない気もした。お相撲さんは立合いの時、奥歯を噛みしめると聞いたことがある。 イメージ拡大表示795×550(83Kb) だからどうしても奥歯から悪くするとね。わたしもその時は、奥歯はみなガタガタで、すでに欠けているのもある。これはまずいと思ったね。これからは奥歯を噛みしめない人生を歩もうと決めた。その時はすでに奥歯も欠けていたので、ギューッと噛みしめられなかったこともある。ぽかんと口中が空いている。しまりがなくてね。そのことでなんとなく、人生観は変った気がする。清々しい話とは全然違うけどね」 |
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| 娘 | 「奥歯を噛みしめる人生か。私には理解出来そうだけで、無理かな」 | |
| 母 | 「お前は依怙地なところもあるけど、お父さんに似て、すっとした処もあるよ」 | |
| 娘 | 「清々しさでなく、すっとね。いろいろ段階があるのね」 | |
| 母 | 「一級品の清々しさから下はいろいろとね」 | |
| 娘 | 「当然よね」 | |
| 母 |
「当然と云えば、わたしは権威の好きな人、権威に弱い人も両方とも苦手だね。小さな組織の中で、小さな社会の中で、権威づけしてそれがどれ程のものかと疑うね。真価は上も下もなく、強いも弱いもなく、すでに現われているもんだよ。話はずれるが裁判の判決も嫌いだね。なんで判決を人に委ねるのか、とんと分らない。自分が一番よく知っている筈だ。自分が信じる処に落着きの心を決めたら、それでいゝのだ。なんで人の判を仰ぐのか、さっぱり分らない。中には人生の大半を裁判で費やす人もいるだろう。その正義感には打たれても、勿体ないと思うけど。権威で想い出すけど、自分が自分だけで自覚して、その真実を知ればいゝのに、『無事是貴人』と大書して床の間に飾る人、これは嫌いだね。 |
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| 娘 | 「………」 | |
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2002 第3期 第15話 完 |
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