第 3 期

第 13


今思えば、あるかなしかの うつゝの話
母と娘の対話 其の十三



「お母さん、気を新ためて話しましょ」
「なにを新める必要がある。わたしゃ、なんにも悪いことはしていないよ」
「そういう意味でなく、一陣のさわやかな風に当って、あーいゝ風と思えるあのすがすがしさよ」 イメージ拡大表示445×600(32Kb)
「分ったようなことを云うね。でもふっと流れてくる自然の風程、心なごむものはないね。顔がほころぶ、心がなごむね。お金もいらない、タダの風なのにね。すごいもんだ」
「いやね。タダの風なんて」
「お前さんは馬鹿だね。タダ程ありがたいものはないんだよ。空気がそうだろう。一陣の風だろう。雨だろう。光だろう。ありがたいものはみなたゞだ。これが天の恵みだよ」
「そう云われたらそうなのね」
「人は天からのタダの恵みこそ、感謝して全身で受けとめないとね。お前こんなこと教わらないのかい。いや教わる必要もない、当り前のことだけど」
「分ってゝよ。唯人間はそれに人工的な恵みを加味するわ」
「それが度がすぎると、おかしくなる」
「今はなんでもボタン一つそういう時代よ」
「いやな時代になったもんだ。寒かったら、いくらでも着こんでコロコロする。暑かったら裸になる。いゝね」
「お母さんの時代は、女の人でも暑い時は家で裸になる人がいたわね。品がないわ」
「馬鹿だね。裸ですませられるなら、云うことないじゃないか。タダだよ」
「タダ、タダと云うのは品がないわ」
「じゃロハと云おうか。天からの恵みを全身に受けて、感謝出来る人が最高だね」
「未開人がいゝのね」
「いゝ悪いではなく、人間らしい生き方をしていると思うよ。先進国というのはおかしな生き方をしているね」
「人間は文明の利器で、どんどん幸せになってゆくのよ」
「わたしゃ、そろそろ終りだ。これ以上文明の利器とやらに毒されず、タダのいやロハの恵みの中で、人生を終えられるのが嬉しいよ。天からのタダの恵みだけを、たゞたゞ受けて、その恵みの中だけで終る。いゝね、なんか嬉しくなってくる」
「やっぱり、お母さんはお母さんの時代を終るのね」
「わたしゃ、自分の時代なんていらないよ。タダのものしか要らないよ」
「………」
 
 

2002

第3期 第13話 完



前のお話へ! 第3期目次 次のお話へ!