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| 娘 | 「お母さん、御機嫌はいかが」 | |
| 母 | 「まあまあこんなものだろう」 | |
| 娘 | 「お母さんに会いに来て、いろいろ話をする度、家へ帰ってから本当に、あれこれおもってよ」 | イメージ拡大表示499×700(36Kb)![]() |
| 母 | 「お前に今機嫌を問われたが、この前来た人が一言云ってたね。『死ぬることのみ機嫌をはゞからず』と徒然草にあるんだとさ」 | |
| 娘 | 「『死ぬることのみ機嫌をはゞからず』…なんだか、いゝような悪いような、救われるような、救いのないような気にさせられるわ」 | |
| 母 | 「お前もそう思うかい」 | |
| 娘 | 「だってそういうことでしょう。それとも人によって受けとめ方は様々なのかしら」 | |
| 母 | 「お前もいずれ死に直面する」 | |
| 娘 | 「それは避けられない事実ですものね」 | |
| 母 | 「お前さんの云う神さんは、本当にすばらしいものを、最后にもって来ているね。感心するよ。生きて生きて最后に死だよ」 | |
| 娘 | 「なにか云いたそうね」 | |
| 母 | 「いや、文句じゃないよ。以前に旅先の宿の主人が、自分は今如何に死ぬかということばかり考えている、と云っていた。わたしはその人にあまりむきになって考えないで下さいと、云ったがね」 | |
| 娘 | 「そう考えざるを得ないのでしょうね」 | |
| 母 | 「生まれて来る時は、知らず、選べず、時満ちておし出されるんだよ。死はそうはいかない」 | |
| 娘 | 「でも動物は、自分の死を確実に分っていると聞いたわ」 | |
| 母 | 「なんの動物に聞いたんだ」 | |
| 娘 | 「お母さんたら」 | |
| 母 | 「そうらしいね。人間はいまだ動物なのに、その動物の中で唯一、自分の死期を分らない存在らしいね」 | |
| 娘 | 「猫でさえ分っているのにね」 | |
| 母 | 「脳の出来が違うと、困ったこともいろいろ出てくるんだね。動物でも中には、今死にたくないと叫ぶのがいるのだろうか」 | |
| 娘 | 「まあ、分らないわ。ねえお母さん、他の人だったら絶対駄目だと思うけど、お母さんとならどうしてこんなに、死のことを平然と話せるのか、いつも不思議な気がするの」 | |
| 母 | 「わたしも平気だね。お前となら。変なもんだ」 | |
| 娘 | 「お母さんのおなかの中で、一緒に生きていた時があるんですものね」 | |
| 母 | 「そりゃそうだね。そんなこともおもうと摩訶不思議だね」 | |
| 娘 | 「死を苦ととらない時は来るのかしら」 | |
| 母 | 「人間の歴史の中でかい。全体のことゝしてかい。そうであってほしいね。いくら定めとはいえ、苦しんで死んでゆく人を見る程、悲しいことはないからね」 | |
| 娘 | 「私達のお父さんはどうだったの」 | |
| 母 | 「お父さんかい。当時朝鮮にいてね、日本人町の消防団の団長をしていた。訓練で雨にうたれ、急性肺炎で、あっと云う間だったよ。死に際お前達のことばかり気にしてね」 | |
| 娘 | 「其の時の私は、お母さんのお腹にいたのですものね。死にきれない思いだったと思うわ。其の時のお父さんを思うと、もうやり切れなくなってよ。私の体の中には、お父さんのおもいが、なんらかの形になって、生きているとおもうの」 | |
| 母 | 「そうかい。そうだろうね。はっきり把むことが出来ないけど、なにかのおもいをずーと持ちつゞけているんだ」 | |
| 娘 | 「お父さんは、私の体の中で生きています」 | |
| 母 | 「わたしも死んだら、お前の体の中で生き続けるのかね」 | |
| 娘 | 「当り前よ。なにか文句でも」 | |
| 母 | 「お前が赤ン坊の時は、わたしの体の中で生き、今度はわたしがお前の体の中で、生きるのかい」 | |
| 娘 | 「そういうこと」 | |
| 母 | 「でもこれは女だけのことになるね。男は駄目だね」 | |
| 娘 | 「だから女の人は優しく、男の人を体の中に入れて上げればいゝの」 | |
| 母 | 「お前はなかなか出来ているんだね」 | |
| 娘 | 「そうだとしたら、お母さんのお陰よ」 | |
| 母 | 「一寸、息がつまるね。空気が汚れて来たみたいだ。窓を開けておくれ」 | |
| 娘 | 「いゝ風が入るわ」 | |
| 母 | 「なんの匂いかね。なんの花とも草ともわからないが、あー気持がいゝね」 | |
| 娘 | 「私は鼻がいゝのよ」 | |
| 母 | 「そうだよ。女は鼻がよくなくちゃ駄目だ。最大のとり得だ、武器だ。女の目はどうしても弱い。けど鼻はたいしたもんだ。そうかい、お前は鼻がいゝのかい。安心だ安泰だ。 よかった、よかった」 | |
| 娘 | 「・・・・・・」 | |
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2002 第3期 4話 完 |
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