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| 娘 | 「お母さんのような最后を迎えたいわ」 | |
| 母 | 「なんだい、いきなり。わたしはまだ生きているよ」 | |
| 娘 | 「分っていてよ。お母さんは今、何処も悪い処はないでしょう。内臓はすべて元気、目も耳もまだまだ、なにより頭ははっきりしているわ。このまゝの状態で少しずつ自然におとろえて行って、最后は静かに息をひきとる。理想の最后よ」 | イメージ拡大表示481×700(46Kb)![]() |
| 母 | 「最后の最后までは分らないよ。神さんは時に理不尽なことも、平気でするからね。信用は出来ない」 | |
| 娘 | 「そんなこと云ったら駄目よ」 | |
| 母 | 「わたしは心臓がことのほか丈夫らしいので、ひょっとすると、なかなか死に切れないかも知れないね」 | |
| 娘 | 「おもいの他、坂道を下るように急速か、何年も何年もかそれは分らないわ。どちらにしても、珍しい程静かに、穏やかに衰えて行くと思うわ。羨ましいわ」 | |
| 母 | 「まあ、ありがたいとは思っている。親が丈夫な体に生んでくれたからね。これが一番だね。あとは普段の生活態度が、長年の間にしみついて、自分の体をつくっているからね。わたしは病院が嫌いだ。悪いけど病院に来ている人達、患者みな嫌いだ。失礼な云い方だと思うよ。でもなんだか嫌いなんだよ」 | |
| 娘 | 「病院は大事よ。貴い仕事で、そこにこられる人達はそれぞれの痛みや悩みをかゝえて来るので、その人達を毛嫌いしたり、馬鹿にしてはいけないわ」 | |
| 母 | 「いや、わたしの云いたいのは、病院は治療する処におさまっているのが、気にいらないね。病気にならないようにと、予防する処だよ。中国の古い医学書にそう書いてあるらしいよ。医者が出来ることは予防迄で、実際病気になったらそれを治すのは天の力らしいよ」 | |
| 娘 | 「すべて神さまのおぼしめしよ」 | |
| 母 | 「そう云われたらあとはなにも云えなくなるね。それはすごい信仰かも知れないが、どちらかと云えば、人間は神さんのせいにするには申し訳ない自業自得が、多いのと違うかね」 | |
| 娘 | 「私達人間は弱いから、どんなことが起っても、神さまのおぼしめしとおもい、それを率直に受け入れて文句を云わない、堪えるということが大事よ。そこからなにかゞ生れてよ」 | |
| 母 | 「自業自得を受け入れるのは当り前のことだよ。文句を云える立場じゃない。そこに神さんをもってくることはないと思うがね。自分に托された生命は、自分が大事にしなければ意味がないよ」 | |
| 娘 | 「私達はまだまだ完全な体を持っていないと思うわ。先天性の弱い、悪い遺伝子をもって生まれてくると思うわ」 | |
| 母 | 「それはやりきれないね。しかし少しずついゝ方に向ってゆくのが人間の歴史だからね。 でも一番最初から不完全な悪い病気をもって生まれている筈はないよ。生命体の出来は、 実に完璧に近いと思うし、太古の昔は病気はあり得なかったと思うし、病気になったとしても、本来自分が持っている治癒力で治ったのだと信じるよ」 | |
| 娘 | 「自然治癒力の低下ということ?」 | |
| 母 | 「それはあるような気もするし、今はどんどん複雑になっているので、お前の云う神さまが、人間を造った時はなかった病気が沢山出来始めて、対応が出来なくなったのかも知れないね」 | |
| 娘 | 「複合汚染だとか、環境ホルモンとか太古にはなかったでしょうね」 | |
| 母 | 「そう思うと、人間が進化とともに造った病気も沢山あるから、すべて自然治癒力に任せるのは難しいということになるね」 | |
| 娘 | 「お母さんは特別のほうよ。幸せな人よ」 | |
| 母 | 「そうだね。あまり自慢はしない方がいゝね。昔から気がついていることでね、健康のことなど人に自慢すると、そのあと必ず風邪をひいたり、一寸調子を崩すね。あれは不思議な位だね。きっとなんか法則があるんだよ。お金でもそうだよ。無理して僅かなもんだけど、自分としたら大きな買物をすると、そのあと必ず変調があるね。なんという法則なのかね」 | |
| 娘 | 「知らないわ。お母さんが発見者なのだから、自分で名前をつけたら」 | |
| 母 | 「そうだね。今はあきれる程病名が増える時代だね。いくらでも出てくるね。分らなかったり複雑だったりすると、症候群ということになる。おかしな時代だね。昔はそんなことなかった筈だ」 | |
| 娘 | 「だから生きてゆくことの大変さが分るのよ。薬は離せないわ」 | |
| 母 | 「わたしは薬は嫌いだ」 | |
| 娘 | 「そうね。ものゝ見事に嫌いね」 | |
| 母 | 「薬で治ったと思わさせられるのが嫌いなんだよ」 | |
| 娘 | 「意地張りは損よ」 | |
| 母 |
「いゝよ。そんなことで損をしたって本質がおかされないですむなら、それでいいよ」 |
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| 娘 | 「それどういうこと。薬を飲むと本質が冒されるの」 | |
| 母 | 「薬を飲めば三日で治るのが、放っておくと一週間かゝるとするよ。わたしは一週間の方をとっているよ。損をしているようだけど、本質の部分は無キズだ」 | |
| 娘 | 「そういうものかしら」 | |
| 母 | 「自分はそうだと思っているよ。自分はどう造られているか、人間はどう造られているかと云うことに、心がゆくね。薬を飲まなくても治るように造られているとしたら、飲まないようにしているよ」 | |
| 娘 | 「お母さんの抵抗力はそういう長年の蓄積なのかも知れないわね」 | |
| 母 | 「自慢すると危いので黙っているよ」 | |
| 娘 | 「用心深い処もあるわよね」 | |
| 母 | 「わたしは臆病だよ、こわがりだよ。お前さんの云う神さんの前にいったら、わたしの方がずっとおどおどすると思うよ」 | |
| 娘 | 「大丈夫よ。すべておみとおしよ」 | |
| 母 | 「わたしはね、一番気になることは、自分が生きてゆく時、幸せになってゆく時、その幸せは誰れかの不幸の上に立ってはいないだろうかということだよ。一番気にするよ。自分が知らないだけで、人の不幸の上に自分はいないと確信出来る筈はないよ。この間みえた人がきかせてくれたよ。世界の人々の僅か0・1%の人が世界の富の40%をかかえているんだとさ。僅か0・1%の人がだよ。わたしのような小さな幸せでも、誰れかの不幸の上に立っていないと断言出来ないよ。人間って進歩々々、グローバル、グローバルとつい口にするけど、そんなこと思うと悲しくなるね」 | |
| 娘 | 「いろいろ教えてくれる人がみえるのね」 | |
| 母 | 「お見舞にみえるんだよ。だけどおかしなことに、必ず一言は世の中の不平を云って帰るね。これも不思議な法則があるよ、きっと」 | |
| 娘 | 「お母さんにあうと、みな法則にされそうだわ」 | |
| 母 | 「力学的法則だったり、決定的法則だったり、偶然的だったり、確率的だったり」 | |
| 娘 | 「それは因果律よ。よくおそわるわ」 | |
| 母 | 「因果か。わたしゃ墓穴を掘ったかな」 | |
| 娘 | 「何か云いたそうね」 | |
| 母 | 「因果には人間は弱いよ、昔からだよ。悲しいね。親の因果が・・・・・・」 | |
| 娘 | 「どうしたの。お母さんにも弱い処があるの。因果と聞いたとたん、顔が冴えなくなってよ」 | |
| 母 | 「因果の話はよそうよ。だから坊さんは嫌いなんだ。因果を云いふくめるからね。あれは酷なことだ」 | |
| 娘 | 「真実の話よ」 | |
| 母 |
「いかんいかんそんな話で、人を悩ませたり納得させたらいかん」 |
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| 娘 | 「お母さんの悲しい顔は見たくなくてよ。冷たいお茶でも一服どうですか」 | |
| 母 | 「わたしは熱いお茶がいゝね。とびきり熱いお茶をおくれ」 | |
| 娘 | 「あらー、お母さんは猫舌で、熱いのは駄目な筈よ」 | |
| 母 | 「・・・・・・・・・」 | |
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2002 第3期 3話 完 |
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