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| 娘 | 「お母さん、今日はおだやかそうね」 | |
| 母 | 「そうかね。ただ寝ているだけだ」 | |
| 娘 | 「それでいゝのよ。あれがしたい、これがしたいと云われたら困るわ」 | |
| 母 | 「お前は現実的だね。振りかえると、この世の中、現実家の方が幸せになっているようだ」 | イメージ拡大表示496×700(38Kb)![]() |
| 娘 | 「そうかしら、私は自分がすぐ現実的に考える人間だとしたら、随分損な性格だと思っていてよ」 | |
| 母 | 「結果としては、お前の方が幸せな家庭を持ち、幸せな生活を送っているよ」 | |
| 娘 | 「精神性の高いものには憧れていますよ」 | |
| 母 | 「現実化して憧れ、手にとるようにしているね」 | |
| 娘 | 「それでいゝのと違う」 | |
| 母 | 「いやそれは甘いし、狭く落ち入りやすい欠点があるよ」 | |
| 娘 | 「いや、そんなことはないわよ。あの方は益々力を増し、私達みな平伏すように尊敬して満ち足りています」 | |
| 母 | 「それが落ち入りやすい処だと云っているのだよ」 | |
| 娘 | 「尊敬しています。世間がどのように思おうとも、非難しようとも私達の尊敬し、慕う心は不動ですわ」 | |
| 母 |
「まあ、お前の人生だ。好きなようにしたらいゝが、一寸心配しているよ」 |
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| 娘 | 「心配御無用、そんなことかえって困ってよ」 | |
| 母 | 「そうかい、お前はお父さんを知らないで育ったからね。不憫におもっている」 | |
| 娘 | 「そんなことなくってよ。かえってあの方を慕う心に父親像があるのかしらと思う時もあるから、お母さん心配してほしくないわ」 | |
| 母 | 「私とはまた違った、異質なたくましさをお前達は持っているね」 | |
| 娘 | 「私なんか弱い方よ。どうしても家族あってのことで、いつも家族の存在が前程としてあるけど、全く家のことはさしおいて活動している人もいてよ」 | |
| 母 | 「そうだろうね。私の宗教活動の嫌いな処は、そのあたりなんだ。それは今に始まったことでなく昔からだよ」 | |
| 娘 | 「教祖さまは偉いお方よ」 | |
| 母 | 「まあそうであってもだよ」 | |
| 娘 |
「キリストの膝元を離れようとしないマリヤの気持は分ってよ。だけど、キリストの為にいろいろともてなそうとするマルタの気持の方が私は好きだし、一生懸命になにかをしてあげたいと云う処に、生き甲斐があるのよ」 |
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| 母 | 「お前のいゝ処は、そのことでよく出ているよ。だけどと思う」 | |
| 娘 | 「だけど、どうなの」 | |
| 母 | 「私はね、宗教心程、大事なものはないと信じている。けど宗教活動はまた別のものだよ。お前の云うとおり神や仏や教祖があってこそ、今の人間の営みも大きなものに支えられているよ。始めに自分の心に植えつけてくれた宗教心は大事で、本当にすばらしい真実を教えて戴いたら、あとは自分とのたたかいだよ」 | |
| 娘 | 「それはその通りで、私達はそうしていてよ」 | |
| 母 | 「いやお前達はそれもしていることだろう。でも宗教活動の方に力を入れすぎているよ」 | |
| 娘 | 「活動は悪いことなの。少しでも多くの信者をつくり仲間を増やすことは悪いこととでも云うの」 | |
| 母 | 「悪いとは云わないよ。でもそれが一つのそして大きな障害になっている」 | |
| 娘 | 「お互い他教団とは張り合うわ」 | |
| 母 | 「そうだろう。それは当然の結果だよ。そこを何故教祖は気がつかないのだろう。自分を正しい、絶対だと思う、それはいゝそれしかない生き方だよ。だけど他にも全く同じように自分らは正しく絶対だと信じている教団があると、必ず衝突が生じ、あい入れない状態になるだろう」 | |
| 娘 | 「それは法難よ」 | |
| 母 | 「人間の幸せの為、人間としての個を完全に生かしたいとの希いから始まる教えだとしたら衝突はいけないよ」 | |
| 娘 | 「正しいものだけが生き残るわ」 | |
| 母 | 「いやそうとばかりはいゝ切れないよ。又そのような信念は持たないほうがいゝ。私は九十年生きてきて、それはつくづく痛感するよ。現世は所詮、現世で終るよ。そこにだけ価値をおかない方がいゝよ。私が生きてきて本当にこの人に会えてよかったと思う人は、みなともすると恵まれず、無名な人ばかりだった気がする。それでもその人達は輝いて見える。不思議なもんだ。貧しいのに豊かに見え、楚々としているのに品がある。本当に不思議なものだ」 | |
| 娘 | 「真実の正しさは必ず仲間を呼び、力を発揮するものよ」 | |
| 母 | 「目に見え、目に理解出来る形だけを求めると、惑わされるからね。ぽつんと置かれた裸のまゝでも、その真価は察知出来ないとね」 | |
| 娘 | 「私達人間は弱いのよ。形あるものに守られてこそ、保障があり、平穏があるものと違う」 | |
| 母 | 「そうかね、私は自分一人と云うのが落着くね。個々に対しても絶対的な存在のものに対しても、自分独りとの対峙で、考えさせられ、力を与えられ、平穏な日々へと移行されるように頑張って来たつもりだよ。徒党をくまない、組織に入らない、自分独りで対峙する姿勢が落着くよ」 | |
| 娘 | 「寂しいわ。それでは寂しすぎてよ」 | |
| 母 | 「トンデモナイ」 | |
| 娘 | 「ところでお母さん、あの世に行っても大丈夫よ。お父さんが待ってゝくれてよ。綺麗にして行かないと」 | |
| 母 | 「お父さんかい。いやお父さんはもう十分だ。生きて一緒だっただけで十分だよ」 | |
| 娘 | 「え! 他に誰か会いたい人がいるの」 | |
| 母 | 「それはいるよ。九十年生きたんだよ。少なくとも二、三人はね」 | |
| 娘 | 「あきれた」 | |
| 母 | 「お前は本当に馬鹿だね。お人好しだ。二、三人で驚いてどうする。本当はもっともっといるんだよ。私が九十年生きた収穫だ、宝物だよ」 | |
| 娘 | 「あーあ、溜息が出るわ」 | |
| 母 | 「馬鹿だね。アハ・・・・・・お前さんは本当にお馬鹿さんだね」 | |
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2002 第3期 2話 完 |
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