第 2 期 第 6 話
芽ぶきを待ちますく



たとえ、いろいろな事柄でも度々の移り変わりは、あまり好きではありません。しかし、自ずと流れの中でいつもまにか、ということは良くあるのです。
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ここ丹波の地は、冬の寒さの厳しい処ですので、植木鉢を室の中に入れないと大変なことになります。鉢の少ないときはなんでもありませんが、去年はとうとう増えた数の為に、あきになっている小屋が温室に変わりました。温室とは名ばかりの代物です。ビニールをはりめぐらして、直接の冷たい風をよけている程度です。足元からの底びえの時はどうしようもありません。この即席温室が、一年前まではチャボの小屋でした。その二年前は、あっという間に私達の眼前から他界してしまった、北海道犬シロの小屋でした。
そのチャボの小屋だった頃の話です。
前々からチャボ達の小屋は、隣の金網ひとつ隔てた処にあります。自然と数が増えました。メス十五羽、オス七羽になりました。こうなるとオスの毎日の喧嘩がはなばなしく、小屋の中が騒然と落ち着きがなくなります。普段はまだ我慢出来ますが、メスが卵を抱いているときなどは、オス同志の喧嘩で巣ごもりの上にも飛びのってきたり、けちらかすので、メスが落ち着いて抱いてくれません。勿論ボスははっきりしています。ある程度の順位も決まっています。しかし、一寸したことで喧嘩が始まります。それは正確には喧嘩とは云えないでしょう。順位決めの儀式でしょう。しかし死に至る迄やり合う時があるのですから、壮絶なものです。老人である私は見ました。あるボスが順位争いの烈しい争いに負け、力盡き立ったまゝくづれるように、すーっと息をひきとったことを。命の尊厳はこういう処にもあると思いました。
生きながらえるのも一つの尊厳の姿でしょう。最后の最后まで、しかし、自分から、おそらく自分の意志によって、すーっと消えゆくように死に向かって力を出しきるのも、一つの尊厳の姿でしょう。
今想い出します。
老人の友が、信州の姨捨の跡を、地元の老人に案内してもらって尋ねた時の話を。山の頂に畑の跡がのこり、老いたものが、自分の意志で分け入って、わずかな畑を耕しながら死を迎えた話を。死に向かって全力をふりしぼる。自分の最后として、意志として。

老人はチャボ達による喧噪の解決策として、数を減らすこと以外にないことは分かっています。どう数を減らすかです。ふっと思って、北海道犬シロの小屋が隣に空いていることに、そこに解決策をしぼり込みました。無理に無理を決め込んでボスともう一羽の若いオスを残し、他の五羽をシロの小屋に移しました。老人は云いました。
「オスだけになるけど、お前達だけで生きてくれ」と。結果がどうであろうと、それはお前達のものだと決めました。ドキドキする心情をおさえながら決行しました。無残な姿もチラッと脳裏をかすめるものです。自然に反する残酷な選択でもありますから、しかし、オスだけの生活が始まっても、オス同志競り合うことはありません。静かなもので、勿論仲良くとは云いませんが、餌でさえ同じ皿でつゝきます。寝るときは同じ場所で、体を触れ合って寝ます。金網ひとつはさんで、しきりにメスの方にちょっかいを出そうとしますが、どうしようもありません。メス達もなんの動揺もおこさず、ボスの落ち着きもいやまさりにまし、平穏そのものです。
しかし老人はチクリチクリと小さく胸をさゝれます。たまにはメスの小屋に交替で入れて上げようか。いや遠く隔離した訳でもなく、金網越しには会っているのだからとか。いやそれだけに余計、可哀想なのと違うか。お前が選択したことが不自然なのだ。のこしたものは碁石チャボなので、白黒の斑の美しいものを選んだし、面倒見のいゝものを選んだし、その選択に間違いはないものゝ、自然には反するだろうという責め。
しかし、やはり時は流れ、姿は変わるものですね。オスだけの生活も慣れきった冬に哀れにも、イタチによって一羽、一羽とやられすべておすはいなくなりました。
見るも寒む寒むとした小屋になり、クモの巣がはり、山芋やルコウ草のツルがはびこり、中にもイタドリがはえ始めました。オス達だけがいた時も、チクリチクリと胸をさゝれましたが、荒れゆく小屋の前を通る度に、やはりなんの変わりなくチクリとさゝれるものがありました。
老人は思います。本来これでいゝというものはないのだと。いゝと思おうとして落ち着こうとするだけで、本来はそういうものではなさそうだ。よかれとおもってやるしかないが、結果は問うことなかれと思うしかない。

今、仮の温室となった小屋で、僅かに水をやりながら春の兆しを、目を皿のようにしてさがしています。芽ぶきが見え始めたら、また新鮮な気持ちが湧いてくるでしょう。小さな芽ぶき程、内から内から力を与えてくれるものはありません。
 たヾひたすらに、小さな芽ぶきをまっています。

2002

第2期 第6話 完


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