第 2 期 第 5 話
青鷺君へのこだわり



ぼくは感情的なものいゝを出来るだけ慎もうと思っています。感情的になって云うことが悪いというのではなく、一方的な側面しか見ない云い方を慎もうと思っているのです。
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第2期 第5話・「青鷺君へのこだわり」挿し絵人間は感情の動物だとよく云われます。多少さげすんで云っているようです。しかし、感情の動物ならその感情を大事にしたらいいので、自分の感情の持ち方を、いゝ方に導けばと思っています。そうは云っても時にはすねて一寸云ってみたくなる、そんな処と思ってくれていゝのです。
前置きが長すぎました。やはり感情的な物云いは出来るだけしたくないと云うおもいがなせることです。
話します。
「青鷺君、ぼくは君が嫌いです」
唐突のようですが、一寸根があります。
ぼくが丹波の農家に引越して来てから、度々君の姿を身近に又遠くに見られることを新鮮なよろこびとしていました。敢えて名を出しますが、白鷺さんの美しさとはまた違う豪快なゆとりを、君に見ていました。目立たない色なのに、田圃や流れに、そして悠然とした飛行に目が止まりました。陶房から道を隔てゝ見える山の木々の梢に止まる瞬間の身のこなし。夕暮れ時の寝ぐらに戻る飛行の悠長さ、そのどれをとっても立派なものです。しかし流れの中で微動だにせず、じっとしている姿の中に、ぼくが君を嫌いだと云うある面を見たのです。
いつの頃ですか、それは寒い時でした。
丹波の寒さは厳しく、冷蔵庫の中にいるみたいだと思う時もある、そんな頃でした。あまりにも突然に君の姿を陶房の中に見たのです。窯があって作品を載せておく棚が並んでいる、そこに君の姿を見たのです。一瞬、足が止まり凝視しました。あり得ないことが起こったようなとまどいです。今まで自然の風景の中の一こまとして見ていた君の勇姿を、自分の仕事場の一角で、数米の距たりで君を見ているのです。君は逃げようともしません。その時、ぼくは君の陶房への訪問をなにか恩恵のきざしのように受けとったのです。はっと我にかえり、カメラをとりに部屋に行き、窯と棚の作品を背景に、君の姿をとりまくりました。その時、思いつきました。昔の全国あちこちの陶房にも、君は降りたったに違いないと。陶工たちは身近に君の全姿を見たに違いない。だから君の姿は瀬戸に、唐津に、伊万里に九谷にとまだまだ沢山の窯の作品に絵付けされて残ったのだ。そして今ぼくの処にも来てくれ、其の後もよく見かけました。この天からの恵贈を、会う人によく話しました。珍しさと嬉しさの気持ちを含めて。
そして、暫く日がたち、なんでこんな貧しい陶房にも訪れてくれたのかと、ふと思いめぐらした時、はっとしました。そして行ってみて愕然としました。こゝは農家ですので山から自然と浸みこんで来る水を溜めている小さな池というのか貯水場があります。畑にやる水もこゝで汲んでいたそうです。時々は底の泥も掃除して綺麗な水がたまっていました。丁度畳二枚程の大きさです。ドジョウが沢山いました。一寸仕事に疲れたときに其のドジョウの呼吸の仕方が面白く、見いったりしました。しかしそのドジョウの姿が減っているのに気がつき、或る日浮き上がって陽に腹を暖めているような格好の魚を見つけ、網ですくいました。ものすごい形相のゴリでした。二匹いました。名前は図鑑で知りました。このたった二匹のゴリ(カジカ)がこの池の主で、ドジョウがやられていたのです。其の後、田圃への水路でとったハヤや金魚を放ちました。時々見るのを楽しみにしていましたが、普段は忘れていました。其の魚たちのことを、はっとおもい出したのです。

一匹もいませんでした。池の面は静かに、金魚の朱の色もなくなっていました。見事、すべて青鷺に食べられていたのです。
「青鷺君、これが君への感情のなせる全てです」
君の悠然とした飛行は、地上の畳二畳ほどの池にも目がとまり、魚のいることも察知し、そしてぼくがいるのに側近く降りたち、そしてぼくの目が届かない時に、君はすべてやりとげていたのです。君には感心しますが嫌いです。もうこれで勘弁して下さい。


2001

第2期 第5話 完


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