第 2 期 第 3 話
離 れ ゆ く



少年は少年の心をもって、いろいろと見ています。

この頃、狸さん狐さんを見なくなりました。早い時は夕暮れ時、畑に来ている狸さんによく出会いました。ちらっと見た時は犬かなと思いますが、すぐそれが狸さんであることが分かります。歩き方が違います。背中あたりの丸みはやはり狸さんは狸さんで、時々立ち止まって周囲をみる姿がやはり狸さんです。
イメージ拡大表示 800×526(26Kb)
少年は動物や虫たち魚たちが大好きですが、それぞれがそれぞれであるということに、一番気に入っています。狸さんは狸さんで、狐さんは狐さんであって狸さんではない、このはっきりしたことがなにより気に入っています。面白いのです。そういえばこの冬は、まだ一度もイタチ君の姿と出会っていません。一度もです。イタチはちらっと視線を横切り、物影に消えます。今一度見たくて、消えた物影に近づき、ガタガタ音をさせますが、二度と姿を現しません。もうすでに、遠く離れた処に移っているのか、そういう時跳び出すと危ないので、決して跳び出さずにじっとしているのか、それは分かりませんが、その当たりがまた少年の心をうつのです。
冬枯れの田圃になにをさがすのか白鷺や青鷺の姿を見る時も、どきどきします。彼らの動きは緩慢で、悠長にも見えその静かさに感心します。飛び立つ時の翼の広がり、長い足のゆったりとした動き、なんであんなにも音もなく、ふあっと飛び立つことが出来るのか感心あるのみです。しかしこの冬に田圃では一度も姿を見かけません。川では見ます。また野鳥さん達もめっきりきてくれなくなりました。畑の梅の若木の下に、家のものと一緒に、上に餌、下に水という屋根つきの台を作りましたが、その餌がなくなりません。去年は昼に作り上げて餌を置いた処、もう夕方には気がついて数種の小鳥さんが来たのに、今年はまだです。
何故、何故だろうと思います。南天の朱い実も庭に残ったままです。

少年が一番心配していることは、動物たち小鳥さんたちが、どんどん人間から離れてゆくと思えることです。あまりにも人間の日々が、みんなにとって酷なのかということです。自分はなにもしないから、もっともっと身近にいてほしいと思います。一緒に遊ぼうなどは思いもしません。触れようとも思いません。唯、身近に、人間をいやがらず、恐れず、そしらぬ顔をして淡々としていてほしいだけです。

少年は少年らしい悩みの心をもって、役目の一つになっているその日の夕刊をとりに玄関にまわりました。その時、大きな羽音をたてゝ一寸大き目の鳥が飛びたちました。見れば久しぶりに見る山鳩さんでした。落ち葉が音とともにはね、枝がゆれました。山鳩さんは脱兎の如く、羽を一文字に鋭く庭先から消えました。

なぜあんなにも驚き飛び立つのか。少年の心にある哀しさが、ふつふつと、そして飛びたった時の音とともに落ちた赤い椿の花の残影だけが鮮明でした。


2002

第2期 第3話 完


第1話 第2話 第3話 第4話 第5話
第6話 第7話 第8話 第9話 第10話
         

第1期目次へ 第2期目次へ