第 1 期 第 12 話
ト ン デ モ ナ イ


「豚君、君は哀れですね。君を思うと憐憫の情ほとばしるというか」 イメージ拡大表示 800×561(25Kb)
「トンデモナイ」
「これは聞いた話で、たしかかどうか、ヨーロッパでは君は森の中で生活しているとか」
「ぼくの祖先はイノシシです。誇りに思っています。」
「え! イノシシさんが君の祖先ですか、似て非なるかな」
「トンデモナイ」
「私の祖先は東南アジアの森の中から始まります。セキショクヤケイです。古名クタカケ」
「クタカケ、いい名前ですね。クタカケ、クタカケ、いーなー、ニワトリよりはるかにいい」
「私はもうニワトリさんと呼ばれる方が好きですよ」
「駄目ですよ」
「なにがですか、人間とともに生きていますよ」
「人間に同化してはいけない」
「君こそ哀れじゃないですか」
「ぼくは日毎、いや昼日中の陽差しの中でも、夜の闇のなかでも、山野を駆けめぐっています」
「その体で」
「ぼくの自慢は足と鼻です。この二つがそろえばなんでも。夢は山野を駆けめぐります」
「そう云えば私も昔は飛びました」
「今でも飛べますよ。この間、犬に追われた時作業場の屋根を越えて、大きく飛んだではないですか」
「恐ろしく夢中で、よく覚えていません」
「いや、驚きましたよ。けたたましい声と羽をバタバタさせて見事でしたよ」
「恥ずかしい」
「時々は飛ばなきゃ駄目ですよ。あなたの寝床は高い木の上の筈ですよ」
「私は平穏無事、日々好日が好きです」
「駄目ですよ。もっと反骨を持って下さい」
「君は人間さんが嫌いなのですか」
「決して嫌いではありません。唯、同化してはいけない」
「あこがれるものに同化してどこがいけないのでしょう」
「トンデモナイ。いまふと想い出しました。昔は動物も、雀さんでも野鳥さんでも人間につかまると、一切を拒絶し触れられただけでも死を選んだと。それこそ誉れです」
「死んでなにが誉れですか」
「トンデモナイ」
「人間さん達は優しく触れてくれますよ」
「それがなによりいけない。すぐ触れようとし、なでまわして親身に近づこうとする。トンデモナイ」
「でも死を選ぶには当たらないと思いますよ」
「あなたは人間に同化しすぎた。いやまだまだ大丈夫です」
「君がそんな気持ちでいるとは天にも思いませんでした」
「ぼくは現実は現実として、わりきろうとしています。しかし夢ははるかに駆けめぐります。自分らしく生きたい。自分を全面に出して、自由に快活に生きたい。拒絶すべきものは拒絶し、決して同化しない。死に直結するとも、あとのことはどうぞご勝手にと思います」
「君にそんな烈しさがあるとは」
「トンデモナイ」
「考えたら、私も哀れなのでしょうか」
「いやいや、あなたはそう思わないで下さい。今はニワトリさんです。でもクタカケがいい。現実としてあなたはニワトリさんですが、クタカケの心情を忘れては駄目です、と云いたいのです。生意気ですか」
「いや豚君ありがとう。なにか背筋が伸びたような気がします」
「私達はすべて人間に近づきすぎました」
「野生では生きられないということですか」
「いや生きられますよ。生きなければいけないと思います」
「人間さんは私たちをすべて、野生から守ろうとしています」

「それがトンデモナイ」

「人間さんは共存を考えているのと違いますか」
「共存は大事です。でも同化は違います」
「私は、共存と同化を同一視していたのでしょうか」
「共存と同化とは全く違います。人間は特別な存在で、野生を野生としてはつきあえないのです。どこかで同化を求め、その中での共存を図ろうとしているのです」
「人間さんは野生を野生から守ろうとし、絶滅から守ろうとしていますよ」
「人間らしい業ですよ。致し方ないかも知れません。しかし人間さんですら、いずれいつか未来のいつか絶滅に至ると思いませんか。それが自然の摂理と思いませんか。人間は人間らしく生きたい。しかし本来ぼくたちもぼくたちらしく生きたい」
「保護されるということは」
「生きた屍はごめんです。可哀想ですよ」

「人間は万物の霊長であると、古い書物に書いてあるそうですよ」

「トンデモナイ」
「しかし事実でしょう」
「力の差は歴然です。だから万物の長と認めるというのは違います。強いものほど優しくないといけない。万物の霊長と認めた上での出発が、なによりの間違いですよ」
「一寸難しい選択ですね。横一線の出発の真は分からないといけないということですね」
「横一線、気持ちがいいじゃありませんか。すべてのものが横一線。ぼくは他のものの上に立ちたいなど、毫も思ったことはありませんよ」
「豚君は豚君です」
「ハイ、それがすべてですよ」
「今、想い出しました。私の古名はクタカケとともにナガナキドリ」
「そうですよ。あなたの鳴き声ははりさけんばかりに輝いていますよ」
「豚君、一緒に鳴きましょうか」
「トンデモナイ」
「豚君、先程から君はトンデモナイ、トンデモナイとよく云いますが、あれは自分は豚(トン)デワナイという洒落ですか。
ひょっとしたら豚君、君の古名はトンデモナイ? 」
「トンデモナイ!」
 

2002

第1期 12話 完

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