|
少年と北海道犬シロとの散歩途中の出来事でした。
○シロが少年の家に、車に乗せられてやって来た時が初めての出会いですが、少年の父親に尻尾をもって逆さにつるされましたが、ワンとも云わず、いやがりもせず、平然としていました。その識別しか知らない父親は、
「これはいい犬だ」と云いました。
イメージ拡大表示
459×650(19Kb)
 そうして少年とシロとの交わりが始まりました。シロは北海道犬ということでしたので、狩りを得意とし、ソリも引く血脈に違いありません。南極探検隊にも参加している血脈です。その通りシロはまたたく間に大きくなり、筋肉もたくましくなりました。じっとしていられない性格のようでした。
少年は大きくなったシロの首にだきつき、シロも後足で大きく立って少年にもたれかかりました。体は大きくなっても、やはりまだ子供でじゃれることが好きでした。悪さのじゃれではなく力づくでやることが好きでした。
そんな頃の出来事です。
少年はいつものことで、夕暮れ時ひこばえの残る田圃の道を散歩に出かけました。もうすっかり慣れてきましたので、放して散歩しました。シロのよろこびようは大きく、もう唯々一目散に走るのです。畦の細い道を全速力で走り、土手をとび真にみごとな勇姿でした。呼べば、また一目散にかけ戻ります。
その時、前方に猫の親子の姿が見られました。少年はハッとしました。その直後、シロも気づき一目散に走り出しました。少年は瞬時のことで声が出ませんでした。唯走りました。走りながらまずいまずいと胸の動悸がはげしくなりました。とんでもないことが起こるとおもいました。先に走ったシロが猫の前でピタッと止まりました。
一匹の子猫でした。離れた処に親と数匹の子猫がいました。子猫はシロに向かって小さな威嚇をしました。小さく見えても必死の威嚇でしょう。その時のシロの困り切った顔を少年は忘れることは出来ません。一目散に走ってきたものの、あまりに小さな子猫の必死の形相に出会い、どうしたものか大きな体を右にやったり、左にやったり少年の方をチラチラ見たり、口からはヨダレをタラタラと流して困惑しきっています。少年はシロの体をおさえました。子猫は親猫の方へ走りました。瞬間、シロの筋肉がはじけ少年の手に伝わりました。シロは追いかけませんでした。
少年はシロの大きな体を抱きました。目で子猫達の藪に消えることを確認しました。どっと安堵のおもいとシロに対する無上の嬉しさがこみ上げてきました。
「シロゆくぞ」
子猫達の消えた藪と反対方向に向かって、全速力で走りました。シロは追いかけあっという間に少年を追い越して先へ先へと走ってゆきました。
シロと少年の姿は刈りとられたあとの田圃の一点景となりました。ヒコバエのツンツンした黄緑が、夕日を受けてまこと涼しげでした。
2002
第1期 第8話 完
|