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老人は真夜中にチャボ達の変な鳴き声で、目を覚ましました。そういうことは今迄にも何度も何度もありました。冬に多く、イタチに追われ悲痛な叫びの断末魔に終わるのです。
それとは少し違います。今秋も終わろうとしている時です。鳴いて逃げようとしている様ですが、他のチャボは騒ぎません。鳴きも直ぐ納まり、また鳴き始めるという風でした。老人の意識がはっきりしてきたと処で、起きて下に降りました。老人は独り陶房の屋根裏に寝ているのです。今迄にもこんなことがあり、其の度に補修し、之以上は穴を掘って進入する以外は大丈夫と思っていました。
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窯の処に作った小屋の戸をあけました。灯が薄明るく入った地面に白いものが点々として、それがチャボ達と分かった時老人はギョッとしました。一羽二羽ではないのです。もう完全に身動きひとつせず死んでいるのです。全部やられたに違いないと思いました。其の時、巣箱の上に大きな蛇を見つけました。逃げると思いました。台所に走り若者に声をかけましたが真夜中のことです。気がつかず起きては来ませんでした。老人はあわてて小屋に戻り蛇の姿をはっきりと見ました。青大将のようでした。大きな口をあけて、老人を威嚇しました。老人は怒りがこみ上げてきました。ヒナ一羽を加え五羽が死んでいました。あとの七羽は分かりませんでした。逃げ始めようとする蛇の尻尾をつかみ、近くにあったレンガで腹をたたきました。もうどんどん怒りがまし青大将をゆるせない気持ちになりました。
その時はっきりおもったのです。えさとして殺さなければならないのならともかく、食べもしないのに、次から次へ殺すのは許せないとおもったのです。これははっきりと、唯の殺りくにすぎないと思ったのです。老人は暗闇の中で青大将をたたき続けました。
ぐったりした青大将を裏の藪にほかそうと思いました。気がつくと外は冷たい雨がこまかに降り、かすかな音に闇を一層感じました。これでは外に出てゆけないと思いました。老人は下着のままでした。陶房の裏に廻ってそこから青大将を藪に向かって投げました。うまく飛ばずに近くに落ちました。枯れ草にぶら下がるように、不気味にその一メートル五十程もある体は動かなくなりました。
小屋に戻りました。チャボ達は一番高いとまり木に並んでいました。一羽の一番歳老いたオスのチャボだけがおそわれる前にいた巣箱の一番すみに体を丸めていました。そこにみな集まって寝るのです。寒くなってゆく時に体を寄せ合い、ヒナやメス達はオスの体に頭からもぐったりして寒い夜をやりすごすのです。
小屋は静まりかえり、もう何事もなかったようです。ただ殺されたチャボ達だけがあいかわらず不気味に地面に点々としていました。あとは朝にしようと思いました。あと数時間で夜は明けてゆくのです。老人は屋根裏の部屋に戻りました。許せないとそのことばかりを思いました。
翌朝、
明るい中で新めて小屋の中を現実として、とらえました。死んだ五羽を小屋の隅に埋めました。こんな沢山を同時に埋めるのは初めてのことでした。やり切れない気持ちでした。血のあとはなく、よく分かりませんが圧力のような気がしました。急に半分ほどに減ってしまった小屋の中は、へんに寂しさがただよっているような気がしました。まだ小さなそれでもヒヨコを脱したチビとその母親と、おとなしく一番奇麗なメスとオスが二羽死にました。オスはチャボとはいえがっちりした体格でした。青大将の進入口は分かりませんでした。
その後老人はこの事件のことを人にも話しました。許せないという気持ちを前面に出して話をしました。
そんな折、若い友人が尋ねてきた折、同じように事件の話をしました。食べる為に殺したのならまだ許せるとしても、食べもしないのに五羽も殺したのは唯の殺りくであり、許せないと語気を強めました。若者はいいました。
「青大将を食べましたか」老人は思いがけない気持ちになりました。勿論食べずに裏の藪に投げたことを話しました。
若者は
「それでは青大将と同じではないですか」
と答えました。どこが同じかと思いました。自分は殺されたチャボと同じような立場に立って他人事ではなく怒りをもった行動でなんの責めがあると思いました。「青大将と同じだなんて」と思いました。自分の真情が伝わっていない気がして、若者に対して小さな不満が湧いてくるようでした。
「君ならどうする」
「自分だったら蛇は殺さない」
「どうして」
「自分はチャボではありませんから」
「チャボの立場に立って腹が立たないの」
「それはそれですから」
話は終わりました。
それから数ケ月たって、老人はもっと奥の処に住む老人と出会った時、同じようにチャボが青大将に殺された話をすると、即座に、
「それはテンだ」と云ったのです。いや青大将が小屋の中の巣箱の上にとぐろをまいて居たと云っても
「それはテンだ。テンは小屋に入ると先ず全部を殺す」と云ってきかない。イタチとは違う殺し方だとは思っていたが、テンとは思いもよらなかった。しかし青大将は現にいて、老人は青大将を犯人として殺している。イタチには度々やられたがテンは見たことがない。いるのかどうかも知らない。テンであるなら青大将はどうして小屋にいたのか。テンを追ってきたのか。
老人はわけがわからなくなりました。
「それでは青大将と同じではありませんか」という若者の声が聞こえ
「それはテンだ」と云う声がきこえ、やはりこれ又、闇の中かと思いました。今あの時と同じ様な雨がしとしとと果断なく降りつづけ、前より一段と冷たい空気の中にいることはたしかでした。
2001
第1期 第7話 完
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