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ここ丹波の片田舎の地に引っ越して来て間もないころの出来事でした。今だったらしないことかも知れません。
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夜、尋ねてみえた知人の呉服屋やさんが、帰られる時車を見送りました。細い田圃の道を行き国道に出る迄見送るのですが、国道に出る処でライトが止まり、動きそうもありません。なにかあったのか気になり、走ってゆきました。走ってゆける近い処です。呉服屋さんが何かに向かって手を合わせています。聞きますと、丁度自分の車が国道に出ようとする時、目の前で狸が車にはねられたのです。呉服屋さんが車から降りて近づいた時はもう死んでいたそうです。それも二匹でした。見れば二匹の狸の上に、呉服屋さんの店の日本手拭いがかけられていました。引っ越してきて初めての経験としての動物の死でしたので、異常の感を強く持ちました。
翌朝、あわてて裏の農家の人に狸の死を告げました。ところが農家の人は意に介して、何もあわてることなく、日に一二度道路パトロールの車が廻っているので、それに任せたらいいと云うことでした。素っ気ない答えでした。そんな!と思いました。
自分は息子とともに、狸の死んだ処にゆきました。昨夜は暗く分かりませんでしたが、狸はまだ若い二匹で毛並みが綺麗でまるまるとしていました。二匹が伴れだって追うようにして国道を横切ったに違いありません。一瞬の間での出来事だったのでしょう。
自分らはいたたまれない気持ちになって、二匹の狸をその場に埋めました。丁度広い空き地になっていて、草が茫々の処でした。穴を掘る姿を近くの農家の人が遠くから見ている目を感じましたが、やるせない気持ちが強く、埋めました。
その後、あちこちに狸のひかれている姿に出会いました。なんの珍しい出来事ではなく、特に冬になるとその数も多くなりました。餌を求めて民家に現れるのでした。ほとんどが狸で、キツネの惨禍には出会ったことがありません。時々、イタチらしいものはいました。狸はライトが当たると、すくんでしまうからだと聞きました。
人間の身勝手なことがよく分かります。人間が野生の動物たちをおいつめたことが分かります。
それから十数年がたちました。空き地だったその処にも家が建ち始めました。今二軒目がたち、このあと五、六軒は建つそうです。忘れていた狸の死を想い出したのです。日本手拭いをかけられて埋められた狸の穴の上にも、いずれ家が建つことでしょう。この処の厳しい寒さの中、今コンコンと雪がふりつづいています。風はやみましたが、このしじまの中で時の流れもまた黙々と姿を変えてゆくことに、どうしようもないおもいが吹きつけられてゆくようです。
狸の穴の上に降り積む雪は真白で静かです。この雪が最後の静けさになるのでしょう。
2002
第1期 第3話 完
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