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老人は今窯場の処で碁石チャボという、白と黒のまだらの美しいチャボを飼っています。五羽のメスと一羽のヒナと二羽のオス。その内の一羽はリーダーとして一番立派で優しかったのですが、年老いて、そしてこの寒さに向かうときだけに全身の羽をたて、顔を胸にうづめ目をとじてじっとしている時が多くなりました。前にはもう五羽多くいましたが、なにかにあっという間に殺されたのです。
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 老人は動物を飼うことの悲しさをおもいました。しかし動物の優しさもよく知っています。飼っているチャボのメスは特に優しく子供にもなつき、抱いてトサカや体をそっとなでてやると目をつぶり、体のどこかを優しそうに鳴らします。卵を抱いている時のふっくらとした落ち着き、くちばしの先で卵を少しづつ動かす時のまこと細やかさ、ヒナが生まれた時の何とも云えない神妙な顔つきと、世話のまめまめしさ。その時老人ははっきりと分かりました。何故卵を抱いてヒナをかえすのか、まめまめしく育てるのか、一生懸命頑張るのか、それは、ヒナが可愛いからです。このひとことに尽きるとおもいました。
老人は忘れていたひとつのことを想い出しました。二十年前程のことですが、すっかり忘れていましたが想い出すと鮮明になってきました。老人は焼きものを作る仕事をしていますが、朝、牛乳配達もしていました。そのお陰で牛乳屋さんの裏の畑の隅に、六畳のプレハブを建て、軒を出して窯を置き一人で焼き始めたのです。小さな畑でしたが次から次へと野菜が植えられて、秋になると柿もたわわに実り、その久保柿の枝ぶりもたいしたもので、小さいながらに風格があり、お隣に残された倉も実に落ち着いて、今はあまり使われていない農具や台車等も往時を語っていました。その向こうで頭巾をかぶりモンペ姿で畑を耕す老母の姿も絵のようで、そこに静かな田舎のかたすみの生活がありました。
そんなある時、近処の少年がその小さな陶房を尋ねてきて、鶏が段ボールに入って捨てられているがどうしょうと云うのです。見てみると云うとすぐにとってかえしダンボールをかかえて来ました。あけてみると一羽の鶏がいました。動きません、弱っています。抱いて箱の外に出すと老人は息をのみました。なんと鶏の爪が長くのびて折れまがり歩けなくなっていました。おなかも空いているようです。このダンボールの中だけで長いこと飼われていたに違いありません。多分、ヒヨコの可愛さに飼い始め、その後大きくなるにつれどうしょうもなくダンボールの中だけになったのでしょう。飼ってみると云うと少年は安心して帰っていきました。
さて明日からどうするか。陶房の小さな入り口の土間での生活が始まるのです。昼間は外の畑に出しました。歩けませんのでじっとしていました。それから一体どの位たったでしょうか。すっかり新しい環境になれ、柔らかい土の感触が気に入ったようで、小さな凹みを作ってそこにじっと目をつぶり、陽差しを体全体で味わっているようでした。弱り切った足で歩くことは出来ませんが、体をこきざみに動かして、朝置いた処とは離れた場所にいることがありました。もうすっかり慣れて、気に入り安心している様子がよく分かりました。丁度季候もよかったのです。陽差しのぬくもりと土のぬくもりとに包み込まれるように、日ながのんびりしていました。
そしてある夕方、さあ今日も終わりと畑に出ると、小さな凹みの中で息をひきとっていました。体をぬくめているそのままの姿勢で目をとじていました。日中の陽のぬくもりがまだ残っていました。なんと静かな死であろうと思いました。体を持ち上げると、ふぁっとして硬直した感じはなく、陽のぬくもりなのか土のぬくもりなのか、まだかすかに残る生命のぬくもりなのかわかりませんでした。
2001
第1期 第2話 完
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