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 少年は今日も夕暮れ時、散歩に出かけました。何時も一緒の北海道犬シロが、遊びから戻りませんでしたが、きっと気がついて全速力でおっかけてくるに違いないとおもい、一人で出かけました。前にもそんなことがあり、その時のシロの顔が想い出されておかしくなりました。一目散にまさに弾丸の如くに、すっとんで来るのです。追いつくとひとことも云いませんが、そしらぬ顔をして、気づかぬ顔をして、少年の足に体をぶつけるのです。
少年の散歩道は平凡な田圃であり、低い里山にあるのですが、そしてよくよく知っている処ですが、あきることがありませんでした。少年の目の高さで見る自然は、豊かで動きがありました。草花があり、虫がいて、石ころがあって、木々があり、今は冬の始まりのつめたさがすべてを包もうとしています。田圃にそって流れる小さな川の音も、前よりずっと澄んでかたく聞こえるようです。
少年は高い山々を知りません。前に一度出かけたとき、車中から高い山脈を見たことがあります。その山脈は厳しく、真白に光を受け連なっていて呆然としました。自分には一寸こわすぎると思いました。
突然、少年の歩く数歩前に川から上がり低い草むらから姿を現したものがありました。ブルッブルッと体を振り水をきってから少年に気がつき、すごい顔をして威嚇しました。そして歩き出したのですが、後ろの片足がつぶれていて、へんな歩き方でした。なんのケガか事故かわかりませんが、まだまだなまなましく歩き方もへたでした。逃げるでなく前を歩きながら時々振りむいて威嚇しました。少年はその振りむいてする威嚇がいやでした。顔もみにくいと思いました。それは一寸大きいかなと思うイタチです。少年は
「ぼくはなにもしないよ」 と云いたかったのです。分かってほしいと思いました。そして、たまたまシロがついて来なかったことにほっとしました。ぼくはなにもしなくても、シロは追いかける筈です。なにか悪さをするに違いありません。シロはまだ若いですから、そしらぬ顔をして通りすぎることはしないと思いました。以前いたヨークシャのポンは、年をとってからはすべてそしらぬ顔でとおりすぎました。あれ程おっかけまわしたのに、不思議なくらいそしらぬ顔をして通りすぎました。少年も今、そしらぬ顔をして通りすぎたいのです。「ぼくはなにもしないよ」
突然藪の中の小川から青鷺が飛びたちました。大きな体でゆったりと羽ばたき舞い上がりました。青鷺はチラッと少年と、前をゆくイタチに目をやりました。青鷺は高く上がってから今一度、自分を見つめたような気がしました。
立ち止まって空を見上げると、するどい三日月が白くくっきりと目に入ってきました。
2001
第1期 第1話 完
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